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第67話 深夜の侵入者②

Penulis: 花柳響
last update Terakhir Diperbarui: 2026-01-17 06:01:48

 私は見えない何かに追われるようにして、早足で主寝室のベッドに潜り込んだ。

 ここだけが、今の私に残された安全な場所だ。

 征也の匂いが染み付いた枕と、彼が使っていた重たい毛布。

 それに包まれている時だけ、浅くなっていた呼吸がいくらか楽になる。

「……征也くん」

 スマートフォンの画面を指先でタップする。

 メッセージアプリには、私からの『おやすみなさい』という送信履歴だけが、既読の文字を添えて白々しく残っていた。

 目を通していることはわかる。けれど、返信はない。

 向こうは今、何時だろうか。重要な商談の最中かもしれないし、あるいは誰かと食事をしているのかもしれない。

 声を、聞きたい。

 あの低い、威圧的な、けれど不思議と私を安心させてくれる声が聞きたい。

 でも、「緊急時以外はかけるな」と言われているわけではないのに、彼の仕事を邪魔することへの恐怖が指先を止める。

 もし会議中に私の電話が鳴って、数億の取引がダメになったら。

 そうすれば私は、ただのお荷物になってしまう。彼に捨てられる理由を、自分から作ることになってしまう。

「……我慢、しなきゃ」

 私は彼が使っていた枕を強く抱きしめ、ぎゅっと目を閉じた。

 雨音が強くなっている。

 遠くで、重い鉄板を引きずるような低い雷鳴が、腹の底に響くように轟いた気がした。

  ◇

 異変に気づいたのは、深夜二時を回った頃だった。

 ふと、目が覚めた。

 夢を見ていたわけではない。張り詰めていた糸がぷつりと切れたように、唐突に意識が浮上したのだ。

 静かだ。

 雨音だけが、ザアザアと降り続いている。

 けれど、何かが違う。

 肌が粟立つような、生理的な嫌悪感。胃の腑がきゅっと縮み上がるような冷たい予感。

 誰かに見られているような、じっとりとした湿度の高い気配が漂っている。

(……気のせいよ)

 自分に言い聞かせ、寝返りを打とうとした、その時だった。
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